leopardgeckoのブログ

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手塚治虫『妖怪探偵團』について。

今回はMacやローグとは全く関係ない話ですので、興味がない方は読み飛ばしてください。

今年はかの漫画の神様、手塚治虫の生誕90周年だそうです。ファンの端くれとして何か自分にもできることがないかと考えた結果、知る人ぞ知る封印作品である『妖怪探偵團』のwikipediaの記事を書いてみることにしました。

その記事の内容は大したことはないのでさておき、この作品をここで少し紹介します。

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1948年という戦後間もない時期に出された漫画単行本で、精神障害や奇形などを前面にフィーチャーしており、悪意があるわけではないにせよ現代では差別用語とされる言葉もガンガン出てくるので復刻は不可能と考えられています。そんな作品をあえて紹介するのは、そういった経緯を抜きにして考えてみても興味深い点がいくつかあるからです。

 

例えば、この作品には忍術使いの少女が出てくるのですが、この少女は猿飛佐助の子孫であり先祖から受け継いだ異常体質の持ち主であるがゆえに忍術が使えるという設定があります。その体質を受け継いでいない父親は忍術が使えないのです。これは非常にSFっぽい発想だと思いますし、後の白土三平の『忍者武芸帳』などにも通ずる考え方だと思います。1940年代という時代を考えると画期的だったのではないでしょうか。

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また、登場人物の一人(三人?)に、頭が三つある人間が出てきます。作中では本来は三つ子で生まれるはずだったがくっついて生まれてきた人だと説明されます。この人物は銃撃戦で三つの頭のうちの一つが撃たれて、その一つの頭だけが死んでしまいます。そのままだと残りの二つの頭も死んでしまうところですが、優れた医学博士による分離手術を受けて二人の別々の人間として生まれ変わります。これは20年以上後の作品である『ブラック・ジャック』を彷彿とさせる展開ですね。

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ちなみに、この作品の題名は『妖怪探偵団』なのですが作中には探偵団は出てきません。主人公のケンちゃん(手塚スターシステムのケンイチくん)が少年探偵っぽい役回りではあるのですが。表紙の絵には「APPARITIONS CLUB」とあるので、おそらく本来の題名は『妖怪クラブ』だったのが、それではインパクトが弱いと考えた出版社が題名を変更するように要望を出したのではないかと勝手に想像しています。

それに似たような初期作品のパターンとして『地底国の怪人』があって、手塚治虫がもともと考えてた題名は『トンネル』でしたが出版社側の要望でタイトルが変更になっています。その作品では地底国の怪人にあたるキャラクターは出てきますが、それが話のメインではありません。

 

普通の子供向け漫画として精神障害や奇形をメインにフィーチャーするような作品は現在は当然ありえないものですが、おそらく当時としてもかなり特殊なものだったのではないかと思います。手塚治虫の著書によると、戦後間もない時期のわずかな期間、出版の内容が一切合切自由になってほとんど何でもありの状況だった時期があったようです。大手の出版物に対してはGHQによる厳しい検閲があったのでしょうが、いわゆる赤本のような漫画本などはその検閲を逃れていたようです。この作品はちょうどその時期に描かれたものなのではないかと思います。

戦前・戦中にこんな作品を出すことは全く不可能だったでしょうし、戦後も1950年代に入ると悪書追放運動が起こってきましたからやはり不可能だったでしょう。もちろん現代ではこんな作品が出せるはずがありません。日本の漫画史の中で、終戦直後のわずか数年間だけこのような作品が出せる時期があったのだと思います。

そういう意味では出版の歴史を感じさせる作品でもあると言えるでしょう。

 

この作品はそもそものテーマに大いに問題がある上におそらく手塚治虫自身が封印したものでしょうから再び世に問うのは少々心苦しいものもあるのですが、このまま歴史の闇に葬られてしまうのももったいないところがあるのではないかと考え、こんな記事を書いてみました。

初期作品では他にも書いてみたいテーマがあるので、気が向いたらそちらの記事もいずれ書くかもしれません。